次亜塩素酸水の加湿器による空間噴霧は危険なのか


現在、新型コロナウイルスの影響で次亜塩素酸水が大きな注目を集めています。実際に使われている方も多いのではないでしょうか。

次亜塩素酸水のメリットの一つとして、メーカーのホームページなどでは、加湿器に入れて使用すれば空間除菌ができると謳われていることが多いかと思います。因みに2020年5月29日現在、新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会事務局の名義で発表しているファクトシートによると「これまでに販売状況を確認できた 81 品目中、少な くとも 66 品目が空間除菌を謳って販売している」ということでした。

しかし、最近の報道で次亜塩素酸水の空間噴霧は危険といった内容が流れ、加湿器で使用することをやめた人や迷っている人も多いのではないでしょうか。

では、次亜塩素酸水を加湿器に入れることは本当に危険なのでしょうか。

どうしても一つの記事では偏った意見しか入っておらず、見た記事によって認識が大きく左右されてしまいます。本記事ではそういった意見の偏りなく現在わかっていることについてお伝えしますので、それを参考に加湿器で使用するべきか否かご自身で判断できるようになっていただきたいと思います。

「空間噴霧は控えてほしい」という報道について

2020年5月29日に独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下nite)から新型コロナウイルスにおけるアルコール消毒の代替品として界面活性剤の効果が示されたことと同時に、同じく検証中だった次亜塩素酸水についてはその効果についての判断には至らず検証を継続して行うことが発表されました。

それに伴う一部報道にて、当該議論に関わる専門家の話として空間噴霧による人体への安全性は確立されていないため控えてほしいといった趣旨の発表がありました。この2つの内容が同時に発表されたことであたかも国の機関が正式に空間噴霧を控えるように警告していると捉えた方も多いのではないでしょうか。

しかし、まず理解していただきたいのは今回の有効性評価については手指の消毒や空間噴霧についての評価は対象外のため、niteとしては何の見解も出していないということです。

実際niteのホームページでは以下のように記載があります。

「次亜塩素酸水」の噴霧での利用は安全面から控えるよう弊機構が公表したとする報道が一部にありますが、噴霧利用の是非について何らかの見解を示した事実はございません。

「次亜塩素酸水」を消毒目的で有人空間に噴霧することは、その有効性、安全性ともに、メーカー等が工夫して評価を行っていますが、確立された評価方法は定まっていないと承知しています。メーカーが提供する情報、経済産業省サイトの「ファクトシート」などをよく吟味し、ご判断をいただければと存じます。

独立行政法人製品評価技術基盤機構(https://www.nite.go.jp/information/osirasefaq20200430.html

このため、先の報道をもって次亜塩素酸水の噴霧は危険、やめよう!というのは短絡的ではないでしょうか。

しかし、この空間噴霧による人体への安全性について確立した検証方法がないことも事実です。要するに国の基準があれば各メーカーがそれに沿った検証結果をすれば有用な成果を得られるかどうか一目瞭然ですが、現在はそれがないため各メーカー(検証しているところは)それぞれ独自の方法で安全ですと言っているにすぎません。もちろん何らかの検証をやっているだけちゃんとしたメーカーだとは思いますが、果たしてその検証をもってこの製品は安全ですと言えるかどうかはなかなか消費者にはわからないところではあります。

各メーカーがどういった検証方法で人体への安全性を謳っているかという点について上述のファクトシートでは空気中の塩素濃度に関する労働安全衛生法の基準(0.5ppm)を安全性の基準としていたり、ラットやマウスなどを使った動物実験によって評価していたりすることが書かれています。ただ、この動物実験については「なお、噴霧の安全性は、経気道での吸引による毒性を確認する必要があるが、経口毒性のみを 確認して安全性を主張するものも見られる。」ということなので見方には注意したほうが良いかもしれません。

次亜塩素酸水とは何か。新型コロナウイルスにも効果はあるのか。

上述の通り、2020年5月29日時点でのniteの発表では、次亜塩素酸水が新型コロナウイルスに効果があるか否かは引き続き検証が必要ということになりました。

しかしその文言だけが一人歩きしていて、そういう結論に達した背景についてはあまり理解されていない方が多いように思います。そのため、次亜塩素酸水はコロナには効かないといった認識をもってしまった人もいます。

しかし、次亜塩素酸水の一部についてはコロナへの効果が認められています。

niteのホームページによくあるお問い合わせとして、「「次亜塩素酸水」は、新型コロナウイルスに効果がないのですか?」という問いを立て、「新型コロナウイルスに対して一定の効果を示すデータも出ていますが※」として以下の注意書きを添えています。「※塩素濃度49ppm(pH5.0)で、20秒で感染力を1000分の1まで減少させた例がありました。」

ではなぜ次亜塩素酸水がコロナに有効という結論にならなかったのか、それは次亜塩素酸水とはそもそも何なのか、というのが理由になります。

次亜塩素酸水は食品添加物にも指定されていて、その際の定義は塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電気分解することによって作られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液とされています。
また、塩素濃度やpH値により3つの種類に分けられています。しかし、この定義はあくまで食品添加物である場合です。実は市販されている次亜塩素酸水はその作られ方に電気分解と二液混合と2通りの方法があるのです。そしてこの二液混合の場合は塩素濃度やpH値の規定がないため、商品自体にも記載されていないケースが多いのです。

元々はniteで試験を行うのも電気分解された次亜塩素酸水のみを想定していましたが、市場の状況を鑑みて二液混合の次亜塩素酸水も試験対象となりました。しかし、その性質は製品によって全く異なっているとなれば、それは結果が出るものもあり、出ないものもあるということになります。そうなるとそう簡単には結論づけられないというのも頷けますよね。

空間噴霧の効果について

まず、そもそも空間噴霧とはどこにある菌やウイルスを除去するために行うのでしょうか。

niteのファクトシートによると「①物体表面のウイルス除去か、②空中のウイルス除去かが判然としない販売例が多い。」とされています。

ではどちらのウイルス除去が重要なのでしょうか。それについて三重大学の福﨑教授は以下のように述べています。

微生物は浮遊するよりは何かに吸着したほうが安定するので、浮遊菌より付着菌のほうがはるかに多く、さらに床に近づくにつれ数が多くなるのです。浮遊している菌は換気をすれば、ある程度希釈されて薄まりますが、換気だけで室外に出ない付着菌や床の菌をどうするか、というのが問題なのです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/cf003bde1568404f6ba72f0087f4da05afad1ac0

つまり①物体表面のウイルス除去が重要ということになります。そして、次亜塩素酸水を使った噴霧によるウイルス除去とその安全性については次のように述べています。

空間噴霧の微細粒子は落下して、膝から下に溜まっている菌に作用します。たとえば汚れた空間で噴霧を行うと、私たちが着座した状態や起立した状態で顔の位置にくる次亜塩素酸はほぼゼロです。これを長時間続けていて、初めて2~5ppbという薄い濃度になります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/cf003bde1568404f6ba72f0087f4da05afad1ac0

このように空間噴霧というのは空間自体の除菌しているわけではないこと、空間噴霧による空気中の次亜塩素酸の濃度は低いため問題がないという見解です。

空間噴霧についてWHOの「消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。」という見解もメディアなどでよく耳にしましたが、ここで想定している消毒剤が「ホルムアルデヒド、塩素系薬剤、又は第4級アンモニウム化合物など、」を想定しているようなので、このWHOの見解をもって次亜塩素酸水の噴霧は人体に有害なはずとは考える必要はないように思います。

しかし、それでも心配な方はご自分が部屋にいない時に加湿器をセットしておくというのもお勧めです。

その際に注意していただきたいことは製品の説明書などをよく読み、用法容量を守って正しく使っていただくことと、ファクトシートに「次亜塩素酸によっても金属が腐食する可能性 がある。また、金属に限らず、ゴム類の次亜塩素酸水による劣化についても数多く報告されている」という記載もあることから家具などへの影響がある可能性もあることを誤認識いただきたいと思います。

まとめ

次亜塩素酸水とその空間噴霧についてご理解は深まりましたでしょうか。

アルコール消毒と比べて次亜塩素酸水の除菌剤としての利用はまだまだ歴史が浅く、整備されていないことも多いのが現状です。先にお伝えしたように塩素濃度やpH値、注意事項などが正しく商品に記載されていないものも多いです。因みにファクトシートに必要項目の記載例が載っていますので引用しておきます。

さすがに現時点でまで表記がしっかりしているものはないとは思いますが、これまでの情報を受けてホームページなどでしっかり解説しているメーカーも多いようです。

もしかすると中には粗悪な製品もあるかもしれないですし、想定している使用方法と違う用とで作っている製品もあるかもしれません。このため、商品やその説明書き、メーカーのホームページなどをしっかり見てその試験状況などを精査して使用するか否か決めていただきたいと思います。